情報および結果の不確定性と性能評価の非対称性

「相手の使うキャラは強い」という主張について書きます*1

上の主張を正確に表現すると,「あるキャラについて,自分が使う場合に比べ,相手が使う場合はその性能がより高く感じられる」となります.
この主張は,あるキャラを使うプレイヤーと使われるプレイヤーとでは,その同一のキャラに与える評価が変化しうることを示しています.
このような非対称性を生ずる要因は,ゲーム自体に内在するものと,プレイヤーの認知的特性に関するものの2種に分類されますが,ここでは前者を取り上げます.

ゲームに内在する要因は,さらに以下の4つに分けられます.

(i) 構成の不確定性
最も理解しやすいのはこの要因でしょう.
相手のキャラの構成の一部あるいは全てを確定するには観測が必要であり,観測するまでは複数の構成を想定して行動せざるを得ません.
これに対し,自分のキャラは当然ながら構成が確定しており,この差が性能評価の非対称性を生む要因となります.
このとき,観測の難しさや想定すべき構成の多さなどが,非対称性の大きさを決定します.

(ii) 選出の不確定性
相手があるキャラを選出しているか否かを確定するためにも,やはり観測が必要です.
確定前は,たとえ相手が実際にはそのキャラを選出していない場合でも,選出している可能性を考慮して行動することになります.
このような場合において,(i) と同様の非対称性が生じます.

(iii) 確率的な不確定性
あるキャラの行動の成功率が p であるとすると,その阻止率は 1−p で与えられます.
成功率 p が十分に高くないとき,自分はその行動の採択に関して消極的になります.
また, 阻止率 1−p が十分に高くないときは,相手がその行動をとる可能性を無視できなくなります*2
したがって, これら2つが同時に満たされる場合には,そのキャラの受ける制約に関して差異が生じ,それが性能評価の非対称性に繋がります.

(iv) 択一攻撃の不確定性
あるキャラが発生させる試合上の分岐について,自分が使う場合と相手が使う場合の両者においてその分岐を許容できない場合,やはり (iii) と同様の非対称性が生じます*3

上記4つの不確定性が,キャラの性能評価に非対称性を与えます.
(i) と (ii) は情報に関する不確定性であり,(iii) と (iv) は結果に関する不確定性であるといえます.
これらの不確定性そのものはプレイヤー自身の特性とは無関係に存在し,全てのプレイヤーによる性能評価に影響を及ぼします*4

加えて,各キャラに対する評価の非対称性の大きさは一様ではないことにも注意しておきます.
すなわち,相手に使われた際に強く感じるキャラとそうでないキャラとがいずれも存在するということです.

キャラの性能を正当に評価し客観的な議論を行うためには,以上のことを考慮する必要があるといえるでしょう.
また,そこからさらに一歩進んで,相手視点での非対称性を意識的に利用するような戦略を考えてみるのも面白いかもしれません.

今回はここまでです.
最後まで読んでくださり,ありがとうございました.

*1:キャラ以外に関しても類似した議論が可能であるが,ここでは便宜上それに限定する.

*2:ここで「十分に高くない」という表現を二度用いたが,これらの基準は一般に異なることに注意する.

*3:上と同様に,2つの「許容」の基準は一般に異なる.

*4:ただし,その影響の大きさはプレイヤーに依存する.

非合理的行動選択による勝率の上昇

「相手が意味不明な行動を取ったから負けた」という主張の妥当性について書きます*1

以下,客観的なプレイヤー1と主観的なプレイヤー2の対戦における1つの局面を考え,プレイヤー1の選択肢はAのみ,プレイヤー2の選択肢はa,bとし,それらの組み合わせにより一意に決定される結果をプレイヤー1の勝率に代表させて記述します*2*3

表1:プレイヤー1の想定する利得表(実際の利得表に一致)*4

a b
A 1.00 0.00


表2:プレイヤー2の想定する利得表(実際の利得表には一致せず)

a b
A 0.00 1.00


各プレイヤーは表1,2に示す利得表を想定した上で行動します.
プレイヤー1の想定する利得表は十分に客観的であり,実際の利得表に一致しています.
一方,プレイヤー2の想定する利得表は主観的で,実際の利得表には一致していません.
さらに,プレイヤー1はプレイヤー2が表2の利得表を想定していることを知っているものとします.

この局面において,プレイヤー2にとってaは支配戦略ですが,実際の利得表は表1のものであるため,aが選択されるとプレイヤー1の勝利が決定します.
これに対し,プレイヤー2が被支配戦略であるbを選択した場合には,プレイヤー1が敗北します.

さて,この例ではプレイヤー2は被支配戦略を選択することで,支配戦略を選択した場合よりも良い結果を得られる構造となっています.
すなわち,この局面においては非合理的な行動により勝率が上昇します.
このような局面を考えることができるため,冒頭の主張を直ちに非妥当とするのは早計であるということになります.
ただし,相手の想定する利得表を知っているとはどのような状態を指すのかに関しては議論の余地があることを,ここに明示しておきます.

今回はここまでです.
最後まで読んでくださり,ありがとうございました.

*1:「のに」ではなく「から」である点に注意する.

*2:「勝率」とはこの対戦に限ったそれを指す.

*3:プレイヤー2の勝率は1からプレイヤー1の勝率を減ずることで得られる.

*4:(プレイヤー1が行を,)プレイヤー2が列を選択する.表2も同様である.